第5回世界オピニオン リーダーズ サミット開催、ハーパー前カナダ首相の基調講演
民主主義と自由経済で世界をリードしてきた欧米諸国のいくつかは、社会の分断が急速に進み、安定した政権が維持しにくくなっているとも言われています。
また、中国のような価値観の違う国が伸長しているなか、国際情勢に危機感を抱かせる現在の状況ですが、先月、カナダ前首相のスティーブン・ハーパー氏が来日し、世界オピニオン リーダーズ サミットが東京で開催されました。
G7の結束と役割を重視するハーパー氏
スティーブン・ハーパー氏について、どんな方なのか、ほとんど知らずに参加しましたが、現在の国際情勢についてわかりやすく分析し、また、今後への提言を含め、素晴らしい考えを持つ方との印象を持ちました。
ハーパー氏によると、欧米では伝統的な右派や左派とは違う対立軸が生まれているとのことです。最近よく言われる、ポピュリスト対エリートという構図です。これまでの保守・リベラルの枠を超え、あるいは縦断する形でその対立軸が生まれているとのことです。
また、政治の細分化が起こり、選挙で安定した政権をつくることが困難になってきている現状について分析されていました。
欧米の民主主義国家では、グローバル化の反動からか、ナショナリストが台頭し、環境保護至上主義、ネオナチ政党も伸長し、その結果分断が進み、政治の細分化が進んでいるとのことです。
それでもハーパー氏としては、欧米の資本主義は変化に対応していくことができるとし、最終的には中国のような国家が強く関与する経済体制や独裁的な国に対しても、勝利していけるはずだと考えているようです。
また、このような世界情勢の中において、G7の果たす役割を強調しました。G7の構成国は、民主主義と資本主義の価値観と国益を共有していますから、一致団結して動くことができるとのことです。
最近はG7はもう必要ない、G20で大事なことを決めていけば良いという意見も耳にします。G20 の経済規模は世界のおよそ8割を占めていますので、その意見もわかりますが、まとまって決定を下せるかというと、これまでの経過から、なかなか困難に思えます。その意味で、ハーパー氏がG7を重視していることは間違いではないように思えます。
日本とカナダ両国は、民主主義と市場経済志向のミドル・パワーの国であり、欧米諸国のような社会の混乱は避けてきた国です。他の国と協力して世界秩序の維持に貢献すべきと言われていました。
また、衆議院議員の松川るい氏からの、「一党独裁で安定した中国の強みは、意思決定が早く、20~30年先を見据えた長期的な政策が可能な点にある。長期政権の少ない民主主義国家は、どう対抗できるのか」との問いに対して、「独裁的な政権であっても、長期計画が実現するかは疑問である。中国は改革開放路線で経済大国に成長したが、それは目標が見えていたからだ。躍進した最大の理由は、国内に数多くの起業家が育ったことにあり、自由経済を維持しないことには難しいだろう」と、現在台頭している中国の経済力は、政府の長期計画の成果ではないとの見方を示しました。
それに対し深見東州先生も、「ソビエトは5カ年計画、10カ年計画に失敗し崩壊した。民間の経済の活力、国民生活こそが肝だ」と応じられました。
現代は技術革新により、多くの人が瞬時に情報を受け取ることができます。またSNSで自ら発信し、政治的なネットワークをつくることもできます。その結果、破壊と分断も広範囲に渡って予測以上に進んでいるとのことです。体制側の意見の重要性も低下しているとのことです。
経済のグローバル化については、冷戦終結により社会主義モデルの経済が終焉し、市場経済への移行によって格差拡大に繋がった国もあるが、約10億人の人々が貧困から脱却し中産階級になることができたとのプラスの成果を強調しました。
また、それらの変化によって生じた結果の一つが、中国の台頭でもあるとのことです。しかし中国は、これまで以上に国家資本主義に向かおうとしているので、そうなるとこれまでのような民間の活力を維持できるのかは疑問ですが。また、そのような国家統制による経済を、アメリカが明確に拒否し貿易戦争になっていますね。
その結果がどのようになるのか。世界の貿易が分断され、保護貿易に向かうことも懸念されます。今後ますます大国間の間で、日本は非常に困難な舵取りを迫られるでしょう。その中で同盟国と協調していくことが大事だと、今回のサミットの話を聴いて強く感じました。

日本の政治について
パネリストとして出席した城内実衆議院議員の、「欧米のポピュリズムは、従来のエリートへの反発として出てきている。今後はリベラル対保守の対立を超えた考え方や、欧米とアジアの長所を取り入れている日本の価値観が世界で評価されるのでは」と云う意見には、少し救いを感じました。
奇しくも安倍政権が、歴代最長になったニュースが流れていました。長ければ良いと云うわけではありませんが、一昔前まで、日本は毎年首相が変わっていました。あれでは他国と対等以上の交渉ができるとは思えません。
ドイツのメルケル首相も長期政権ですが、そのメルケル首相が以前、中国にはよく行くのに、なぜ日本には来ないのですかと聞かれると、「日本の首相は毎年代わるから会っても仕方がないと思った」と言っていたのを思い出します。
やはり世界からは、足元の政権基盤が盤石なのかどうかを見られ、短期政権だと真剣に相手してくれないのでしょう。
今回、ハーパー氏も在任中に会った歴代の日本首相のことを聞かれると、皆素晴らしい人だったが、毎年変わると関係構築が難しい。安倍首相が長期政権を維持することは日本の助けになるだろう、と答えました。
たしかに現在、先進国では安定している政権が少ないだけに、以前に比べ世界での政治的な存在感が増しているように感じますね。
日本は、世界第二の経済大国として、非常に勢いがあった1980年代でも、政治的には3流国の扱いでした。最近は、皇室を通して、古くからの日本文化への関心の高まりと、畏敬の念を抱かれていることも感じます。
ラグビーW杯の大成功に続き、来年はオリンピック・パラリンピックの開催されます。さらに日本への関心が高まり理解も深まる気がしますね。政治でも、世界の中で力強い指導力が発揮できるようになることを願っています。
今回は立憲民主党の末松義規衆議院議員と自民党の議員の意見が一致する場面もありました。超党派で意見を忌憚なく言え、良い議論ができることも世界オピニオン・リーダーズ・サミットの面白いところですね。
今回は、深見東州先生が総裁を務める世界開発協力機構主催で、世界情勢を学べる貴重な機会に参加できました。スティーブン・ハーパー氏も、カナダ首相退任後、マスコミの前で講演するのは今回が初めてということで、その意味でも貴重なサミットだったと思います。

スティーブン・ハーパー氏の基調講演
ハーパー氏の基調講演をまとめたものが、「財界にいがた」11月号に掲載されました。そちらを紹介したいと思います。
技術革命と経済のグローバル化がもたらしたもの
最近の地政学的な事象の2つの要因として、技術革命と経済のグローバル化が挙げられます。 技術革命とは、ITやAIの進歩のことです。しかしながら私たちはその初期段階に身を置いているにすぎません。
技術革命を語るときによく使われる言葉がディストラクション、つまり破壊、分断です。これらはどこにでもあり、その範囲や規模、スピードは前例のないものです。これにより政治も大きな影響を受けています。たとえばアイフォーンです。
アイフォーンは小さなデバイスで、それほどコストもかかりませんから、本当に貧しい人を除いてほとんどの人たちが購入できます。したがって世界中の人たちが瞬時に大量の情報を受けることができます。
それと同時にラジオやテレビの時代とは違って、現代人は自ら情報を発信することも可能です。SNSを通じて情報をやり取りすることによって、遠くにいる人たちとも政治的なネットワークを予測できないスピードでつくることができます。
もうひとつの地政学的な事象の要因は経済のグローバル化です。西洋民主主義が冷戦に勝利して以降、一部の国を除いて経済モデルとしての社会主義が終わり、ほとんどの国々が市場経済へと移行しました。
そして世界貿易が自由化し、その結果、富が大量に増加。 それに伴い2つの相矛盾した効果が生まれました。 富がより均等に世界中に広がりましたが、 同時に欧米諸国での格差が広 がったのです。
一方では経済のグローバル化により約10億人が貧困から脱却できました。そして中産階級と呼ばれる層をつくったのです。グローバル化による貧困の撲滅は人類史上、最も大きな成功 といえます。
それとは対照的に、カナダはそうではありませんが、ほとんどの欧米諸国では生活水準が停滞ないし悪化しています。 不安定な非正規労働者が増え、製造業においては1千万人単位で3分の1にも上 る雇用が失われています。
また貿易バランスも大きく変化し、米中貿易では4対1で中国側が有利になっており、その差は広がっています。中国がより豊かになっているということです。
賃金においては、トップレベルの人たちの所得が記録的なレベルで増大しているのに対し、一方にはそうではない人たちがいます。
これら2つの要因により、2つの地政学的な事象が起きています。 ひとつは中国の台頭です。もうひとつは、欧米民主主義諸国における従来とは違う指導者や政党の出現です。
彼らは冷戦後の基本政策を攻撃しています。たとえばより自由な市場、より自由な貿易、より自由な移住、そして経済のグローバル化全体を攻撃するのです。
こうした指導者や政党として一 般的にはポピュリストやナショナリストが挙げられますが、ほかにも環境保護主義やネオマルクス主義と呼ばれるものも含まれます。
そしてひとつのパターンが生まれてきています。そのパターンとは、 欧米社会においては分断が拡大しているということです。体制側の味方、つまり企業や銀行、官僚、学会、メディ ア、エンタテインメントなどと、そのような機関に属していない人たちとの間の格差や分断が拡大しています。
またグローバルな経済活動で利益を得ている人たちとローカルな関心を持っている人たちとの間の分断が拡大しているほか、国境を越えて生活している人たちと国境の中にとどまっている人たちとの間の分断、多文化なアイデンティティ を持っている人たちと国内の伝統的なものに関心を寄せる人たちとの間の分断も進んでいます。
欧米民主主義で進む分断の拡大と中国の台頭
多くの欧米民主主義国家では分断が進んでいるために政治的なスペクトルそのものが変わってきています。従来は左か右かといったように二分化の伝統がありましたが、今は新しい政治が生まれています。たとえばポピュリスト対エリートのような関係です。
その結果、欧米では政治の細分化が起こっており、比例代表制においてはより安定した政府をつくることが難しくなっています。この1年で ドイツ、スペイン、イスラエル、スウェー デンが選挙の結果、このような状態になっています。米国もそうです。
もうひとつの大きな政治的なトレンドは中国の台頭です。グローバル 化の結果として、また経済改革の結果として中国の台頭はあり得るだろうと予測はされていました。
そして中国は市場の行動や統治において、東ヨーロッパの自由化された国と同じように徐々に欧米の規範に近づくだろうと予測されていたのです。しかし現実にはそうはならず、中国はこれまで以上に国家資本主義に向かおうとしています。 経済政策では貿易黒字を積み重ね、一党独裁を進めています。
中国は近代化した国の中でも珍 しい国で、新しい技術を活用して国家による社会に対する制御・監視を進め、政治的なプロセスを確立しようとしています。
こうした2つのトレンドにおいて、それぞれ非常に重要な展開がありました。中国では習近平氏の出現、 欧米ではドナルド・トランプ氏の大統領選出です。その結果、両国の緊張が高まっています。
トランプ大統領は米国第一主義を掲げていますが、さらに具体的にいえば中国に対する視点を変化させています。つまりかつて米国は中国の台頭について良くてチャンス、悪くても害のないことだと見ていましたが、しかしトランプ政権は中国を競争相手、それも不公平かつ不公正な競争相手だと見ています。
これにより生じた貿易戦争を解決する糸口はまったく見えていません。米国による中国に対する視点の変化は長期的なものだと思います。 トランプ政権が終わって以降も続くものと私は思います。
なぜならばトランプ大統領の打ち出す政策は米国の世論とマッチしているからです。
中国では習近平氏が台頭しています。これまでの指導者とは異なり、習近平氏は中国の野望を世界の首脳たちに明らかにし、それらを実現するために模索しています。
またグローバルな大国になることを目指しており、隣国に侵攻し、軍事力を増強。そして習近平政権下で政治の自由化は止まりました。習近平氏は鄧小平氏による自由化政策や開放政策を巻き戻してしまった のです。集団指導体制を終結させ、終身での独裁体制を築きました。
しかしながら中国のこうした統治の在り方の変化は後々には過ちだったとみなされると思います。なぜならば民主主義や自由はどこにいても人々が最終的に望むものだと考えるからです。
専制主義のほうが迅速に事を成し遂げるかもしれませんが、過ちを正すということはなかなかできないものです。
一方、カナダや日本が米国とのパートナーシップなしにできることは限られています。米国はわれわれ同盟国をもっと大切にすべきですし、われわれ同盟国も米国にとってより良いパートナーになるべきです。
「財界にいがた」2019年11月号誌面より












